岸辺 正雀 ショットバーレインフォレスト
常念岳の奇跡

山では珍しい現象が起こります。

太陽を背にした正面に、虹に似た光の輪が現れ、

その中に自分の影が映るのです。

これを「ブロッケン現象」と言います。

これは山でもめったに見ることのできない現象だそうです。

影は霧や雲に映し出されます。

晴れすぎていて霧や雲がなければ影は映りませんし、

霧が多ければ太陽の光が届かず影はできません。

太陽の方に霧や雲がなく、反対側に霧や雲の壁がある。

そんな状況にならないと見れないのです。

しかも太陽を真横に受ける形でないといけないので、

基本的には山の山頂か尾根でなければいけません。


二日目。

夜中の3時起床。

温かいコンデンスミルクを皆で飲み終わると、すぐに出発。

暗闇の中ヘッドライトを付けて頂上に向かいました。

日の出は5時7分予定。

頂上までは間に合いそうにありません。

途中の尾根から見渡す雲海から光が広がり、

今にも太陽が顔を出そうとしているのが見えました。

壮大なすばらしい景色でした。

太陽は、ゆっくりと姿を現し、雲海の上に堂々と浮かびました。

最高のご来光に思わず手を合わせました。

頂上まではあと少しです。

太陽の光を真横に浴びながら、前に歩を進めている時です、

「ブロッケンや!」

父が叫びました。

「あそこ見てみ!」

太陽とは反対側に霧がかかっていました。

太陽を背に正面の霧を見ると丸い虹が見えます。

そしてその虹の輪の中には自分の影が映っているのです。

足元から正面に伸びる自分の影。それを囲む虹の輪。

まるで観音様か何かのように見えます。

幻想的以外の言葉が出てきませんでした。


父は30年間山をやっていて今回で二度目だと話していました。

それくらい珍しい現象らしいのです。

初めて山に登った彼女らには、

まさに奇跡に近い経験をしたのです。

僕ももちろん初めて見ました。


今回の登山記録には外せない出来事でした。

「奇跡の常念岳」

大げさでなく、僕の中ではそんな登山紀行でした。