僕のひそかな楽しみは、包丁研ぎです。
どれだけ鋭く仕上げられるか。
革のブーツを光るまで磨くのにはまる人の気持ちが分かります。
店のはもちろん、妻が料理で使う包丁も研いでいます。
妻が上手いなと思うのは、決して僕に、
「そろそろ包丁研いで」
とは言いません。
その代わりに、
「最近トマトが切られていることに気づいてきた」
と言います。
それは、そろそろやばいなと思うのです。
さらに、
「トマトが若干の抵抗をしてきた」
と言われると、研いであげないと、と思うのです。
「鶏肉が痛がっている」
と言う時は、包丁として機能していません。
包丁をノコギリのように使っている絵が浮かびます。
一刻も早く研ぐ必用があります。
男子を動かすのは、命令でもお願いでもありません。
危機感をいかに意識させるかです。
トマトごときに抵抗されているようでは料理どころではありません。
道具の大切さは分かっています。
そこに、抵抗勢力があることを伝えてあげるのです。
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